| | 被害対策(農水省) | |
| 2011/08/19 |
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被害防止対策の基本的な考え方 野生鳥獣による農作物の被害防止対策を実施する上での基本は、被害を引き起こす要因を知り、それに応じた対策を行うことにある。また個々の農業者による点的な対策だけでは抜本的な効果を期待することは困難であり、対策を効果的に進めるためには、地域ぐるみの取組みを推進する必要がある。 農林漁業者の高齢化等が進んでいる地域では、まず、地域全体で被害対策に取り組む体制を整備することが重要である。 野生鳥獣による被害を左右する主な要因としては、図 1.1 に示す3つが考えられる。農作物への被害は、これらの要因が絡み合って発生し、またそれぞれの要因は、相互に関連し合う。したがって、これらの要因に対応し、被害を減少させるためには、野生鳥獣の管理手法である「被害防除」、「生息地管理」、「個体数管理」の3つを総合的に進めて行く必要がある。 (1)被害防除 被害防除とは、農林漁業や人身に対する被害発生の原因やプロセスを解明し、様々な被害防除技術を用いて被害の軽減を図る手法である。 被害状況(加害鳥獣種、被害の発生時期や頻度、被害対象作物、被害地域の範囲など)を把握し、適切な被害防除技術を選択する。 農作物被害に対する被害防除は、農家を中心とした地域・集落の住民が一体となって主体的に取り組み、行政や普及指導センター、試験研究機関等がそれを支援する形態が最も効果的である。 防除のポイント ○野生鳥獣の餌となる収穫放棄された果樹や農作物残渣をなくすこと、耕作放棄地や放棄竹林をなくすことなどにより、地域ぐるみで人家周辺の環境を整備し、野生鳥獣が進入したり定着したりしないような、野生鳥獣にとって魅力のない地域づくりを進める。 ○被害発生の原因を把握し、鳥獣種や被害レベル、地形などに合わせた適切な防護柵や防護網を地域ぐるみで設置し、住民自らが中心となってその維持管理を行う。 ○地域ぐるみで野生鳥獣に対して追い払いなどの威嚇を行い、野生鳥獣の人慣れ度を軽減させる。 (2)生息地管理 生息地管理とは、野生鳥獣の生息地を適切に整備すること、あるいは野生鳥獣の生息地と農地との間に緩衝地帯を設けることによって、農地や人里周辺への出没を減少させ、被害を減らす手法である。 生息地管理によって、農作物被害を減少させるためには、長期的及び短期的な目標設定のもとで取り組む必要がある。また、野生鳥獣の生息環境保全・再生については、おもに国や都道府県、市町村など行政が実施主体となって進める必要がある。 管理のポイント ○人工林の間伐などにより林床植物の生育を促す、また広葉樹林の育成など、野生鳥獣の生息環境となる森林等を適切に整備する。 ○里山に放置された雑木林や拡大する放棄竹林の刈払いなどの管理を行う。 ○道路やダムなどで分断された野生鳥獣の生息環境や行動域を移動経路(コリドー)により繋ぎ合わせ、本来の生息環境の連続性を確保する。 ○人里周辺、農地(耕作地)と野生鳥獣の生息地である森林等との間に帯状に見通しのよい空間(緩衝地帯)を人工的に整備して、野生鳥獣が森林等から農地へ出没しにくい環境をつくり出す。 (3)個体数管理 個体数管理とは、野生鳥獣による被害の軽減と地域個体群の長期にわたる安定的な維持を図るために、個体数、生息密度、分布域又は群れの構造などを適切に管理することである。 個体数管理は生息地管理と同様に、長期的かつ広域で取り組む必要があるため、科学的データに基づき必要に応じ、都道府県が特定鳥獣保護管理計画(以下、「特定計画」という。)を策定して、それに基づき実施する。 また、鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律(以下、「鳥獣被害防止特措法」という。)により、各市町村が単独又は共同で作成する「被害防止計画」についても、「特定計画」と整合性をとりながら作成する必要がある。 個体数管理を効果的に行うためには、被害を軽減させるために実施する総捕獲数を目標として設定する必要がある。総捕獲数とは、野生鳥獣を捕獲する全ての行為で、狩猟、有害鳥獣捕獲、個体数調整などの全ての捕獲数である。 管理のポイント ○都道府県毎に特定計画を策定し、対象鳥獣の個体数管理のための達成目標を設定する。また、市町村段階の実行計画を策定することにより、被害状況に応じた的確な個体数管理を行う。 ○対象鳥獣の個体数管理を効果的・効率的に行うために、特定計画に沿って、狩猟期間の延長、狩猟禁止・制限の解除や緩和などの措置を行う。 ○個体数管理に当たっては、年次別・地域別の捕獲等の数量配分の考え方を特定計画に設定するとともに、捕獲等の実施状況を調整しつつ、目標達成を図る。また、特定計画に基づいた各市町村の実施計画と毎年の実施状況を管理・調整する。 2 被害防止対策のポイント 野生鳥獣類による農作物の被害防止対策の中には、「防護」、「追 い払い」、「捕獲」などがあり、被害を出している種を特定し、そ の上で被害要因に対応した対策を行う必要がある。 一般的に被害防止対策を実施する場合、 @ 被害を出している種を確認すること A 農地や人家周辺に寄せ付けないこと B 農地への進入を防ぐこと C 捕獲による個体数の削減 がある。これらを組み合わせ、地域ぐるみで効率良く被害を防ぐことが重要である(図 1.2)。 3 地域ぐるみの被害対策と体制づくり (1)地域ぐるみの面的対策が基本 被害防止対策においては、個々の農家による点的対策を追求するのではなく、地域ぐるみによる面的対策に取り組むことが重要である。 集落がまとまらず、防護柵・防護網の設置等の対策を個々の農家が行う点的対策を行った場合は、被害対策を行った農地以外の近隣農地に被害が分散し地域全体としての被害は軽減しにくく、個人の経費負担も重くなる。一方、地域ぐるみの面的対策を行った場合には、地域における被害が軽減でき、かつ個人の経費負担についても軽減することが可能である。 (2)対策の組み合わせが重要 これまでは防護柵・防護網の設置、有害鳥獣捕獲、個体数調整など単発的な対策が中心に行われてきたが、被害の大幅な軽減には至っていない場合が多い。被害の軽減を確実に行うためには、都道府県が策定する獣種ごとの特定計画などにしたがい、「被害防除」、「生息地管理」、「個体数管理」の3つの管理手法を組み合わせ、中長期的な視点に基づく総合的対策を地域ぐるみで実施する必要がある。 (3)基本姿勢ときっかけづくり 鳥獣被害対策では、基本的に防護柵・防護網の設置、追い払いや捕獲等の総合的な対策が不可欠であるため、数戸の個別農家が点的対策を行っても、地域全体としての被害軽減効果は低く、地域の被害軽減を行うためには、面的対策を誘導することが必要に なる。 このため、鳥獣被害対策は個々の技術指導というより集落営農の一環としてとらえるべきであり、特定農家による営農組合、農業改良組合、猟友会、農家と非農家ともに参画する自治会などの組織を対象に、早期に地域ぐるみの対策にもっていくように技術指導を行う。(4)取組に対する仲間意識と対策における連携 地域ぐるみの対策を実施するためには、組織連携による防除体制が必要になる。市町村、JA、猟友会等の地域指導機関がコーディネーターとなって調整を行い、被害集落の組織や関係機関を取りまとめる。農作物の被害防止対策の効果を最大限に発揮するためには、連携体制を構築するのが望ましい。 例えば、防護柵・防護網の設置などの作業は、普及指導センターなど地域指導機関の指導のもと、地元住民主導で実施するようにする。被害住民と関係者が共に汗をかいて協働することによって、仲間意識・連帯意識が生まれ、地域ぐるみの対策へと誘導しやすくなる。防護柵・防護網の設置後は、集落内に管理組織を結成し、定期的・継続的に管理するよう指導する。 (5)地域ぐるみの捕獲体制整備 農業者自らが野生動物から田畑を守るという主体性を持ってもらうことが重要である。また、農業者にも狩猟免許を取得してもらい、猟友会と一体となって捕獲体制を組織することができれば、被害農家から捕獲班への連絡も円滑に進み、被害が拡大する前に捕獲を進めることができる。それだけではなく、狩猟免許所持者が増えることで、捕獲実施者の担い手を補完することが可能となる。さらに、地域全体の共通認識として、イノシシやシカなどの野生獣は、害獣的な面だけでなく、有益な生物資源としての側面をあわせもつという考えを浸透させることも重要な事項である。行政・農業者・狩猟者等に地域住民を取り込み、野生獣類を資源として位置づければ、飲食店や宿泊施設、食育関係者など、これまでイノシシやシカと無縁と思われていた人たちを取り込むことが可能となり、地域ぐるみの捕獲体制ができ、効率的な被害軽減が可能となる。 4 捕獲による被害軽減 (1)基本的な考え方 野生鳥獣における一般的な被害防止対策は、「防護」、「追い払い」、「捕獲」の組み合わせで行うことが重要である。野生鳥獣類を捕獲するだけでは、その地域から被害を出している動物がいなくならない限り、被害はなくならない。一方、被害を出している特定個体を捕獲することや、その地域の個体数を減少させることにより、全体の被害程度を軽減することは可能であり、短期的、緊急的に被害を軽減させるためには有効である。 いずれにせよ、それぞれの地域の社会状況や被害対策の歴史的経緯、地域個体群の大きさ、加害群の性格、被害農林地の構造や周辺状況等々、多くのことを考慮し、捕獲を含めた計画的な被害防止対策を地域の実情に合わせて実行することが重要である。 あくまでも被害を軽減させるための捕獲であるので、計画的に実施することが重要である。 (2)効果的な捕獲のポイント 野生鳥獣の習性や生態を知らずに、やみくもにわな等を設置し、捕獲しても、被害が軽減するとは限らない。また、被害を出している鳥獣種ごとの効率的な捕獲のポイントがある。捕獲のポイント ○被害を軽減するためには、被害を出している個体や群れを捕獲することが重要である。○被害の出ている農耕地周辺で捕獲する。 ○子供を産むのはメスである。特に獣類については、効率的に個体数を減少させるために、メスを選択的に捕獲することが重要である。 ○獣類では、妊娠中のメスを捕獲することは効率的であることから、狩猟による捕獲も被害を軽減させるための個体数削減に役立っている。 ○野生鳥獣の個体数は出生や自然の要因による死亡で変動するため、個体数の年間変動を考慮した計画に基づいて実施することが重要である。 (3)捕獲に当たっての留意事項 捕獲に際しては、捕獲許可証または従事者証を携帯し、許可を受けた者が、捕獲わなごとに、住所、氏名、電話番号、許可年月日及び許可番号、許可有効期間を記載した標識を装着する。 また、許可証及び従事者証は、その効力を失った日から 30 日以内に、許可申請をした窓口まで返納するとともに、捕獲の実績を報告する。なお、許可期間が過ぎた場合は、必ず捕獲わなが作動しないようにする。 (4)錯誤捕獲の対処 イノシシやシカを捕獲する目的(捕獲許可条件がイノシシやシカの場合)でわなを設置し、ツキノワグマが捕獲された場合は、目的外捕獲になるため、麻酔薬等を用い錯誤捕獲された個体を保定し、速やかに現状を復帰(放逐)する。放逐することは、危険が伴うことがあるので、錯誤捕獲が確認された段階で、地方自治体の鳥獣行政担当課に連絡し、相談すること。 (5)捕獲後の処理 1)捕獲個体の安全な取り扱い わなにかかっていたり、手負い(半矢)となった野生動物は弱っているように見えても、人が近づくと興奮して、咬みついたり引っ掻くなどの攻撃をしてくることがあるので注意深く対処する必要がある。また、不用意に野生動物に触れれば、ダニ等の寄生虫や感染症がうつることがあるが、一般的な衛生観念を持ち、注意して対応すれば過度に心配する必要はない。 2)適切な処理 捕獲個体を殺処分する場合は、できる限り不要な苦痛を与えない適切な方法を用いる。捕獲した鳥獣については、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(以下:鳥獣保護法と称す)第 18 条の規定により捕獲場所においてこれを放置してはならないこととなっており、原則として持ち帰り、埋設や焼却により適切に処理する必要がある。 持ち帰ることが困難な場合は、捕獲現場等で適切に埋設もできるが、水源地等に配慮し埋設場所を選定するとともに雨風等による露出や他の野生獣が掘り返しできないよう地中深く埋設する必要がある。 また、イノシシやシカの肉を自家消費分として活用する以外に、大量に処理する場合は、その残渣が廃棄物の処理及び清掃に関する法律により産業廃棄物(事業活動に伴って生じた廃棄物)とみなされる場合もあるので、残渣処理については関係市町村に事前に確認する。 |
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